東京地方裁判所 平成10年(ワ)13910号 判決 1999年5月31日
東京都豊島区東池袋三丁目一番一号
原告
朝日航洋株式会社
右代表者代表取締役
中村哲
右訴訟代理人弁護士
鈴木秀彦
右補佐人弁理士
鈴木秀雄
富山県東砺波郡福野町苗島四六一〇番地
被告
川田工業株式会社
右代表者代表取締役
川田忠樹
右訴訟代理人弁護士
石原寛
同
山川隆久
同
青木英憲
右補佐人弁理士
武田賢市
同
武田明広
主文
一 被告は別紙製品目録記載のアンテナ昇降装置を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。
二 被告は、原告に対し、金七〇万二四五〇円及びこれに対する平成一〇年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
五 この判決の第一項及び第二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 主文第一項と同旨
二 被告は、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、ヘリコプターのアンテナ昇降装置に関する実用新案権を有する原告が、被告が製造販売しているアンテナ昇降装置は原告の右実用新案権を侵害するものであるとして、被告に対し、その製造販売等の差止め及び損害賠償の請求を行う事案である。
一 争いのない事実等
1 当事者
原告は航空運送事業、航空機付帯機材の販売等を業とする株式会社であり、被告は各種構造物、航空機等の製造、販売等を業とする株式会社である。
2 原告の実用新案権
原告は、左記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その登録実用新案を「本件考案」という。)を有している。
記
登録番号 第二一一四二九三
考案の名称 ヘリコプターのアンテナ昇降装置
出願日 平成元年三月三〇日(実願平一-三五六三七号)
公告日 平成七年七月二六日(実公平七-三二三九五号)
登録日 平成八年四月一七日
実用新案登録請求の範囲
「ヘリコプターに装着し、アンテナを昇降させる装置であって、使用時にアンテナの送受信電波が機体と干渉しない位置に下げるアンテナポールの上下作動手段と、アンテナ昇降装置本体を着陸装置の下端よりも上部位置にはね上げて上昇させるアンテナ昇降装置本体の緊急上昇手段とを設けたことを特徴とするヘリコプターのアンテナ昇降装置。」
3 構成要件の分説
本件考案の構成要件を分説すると次のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。
A ヘリコプターに装着し、アンテナを昇降させる装置であること
B 使用時にアンテナの送受信電波が機体と干渉しない位置に下げるポールの上下作動手段を設けたこと
C アンテナ昇降装置本体を着陸装置の下端よりも上部位置にはね上げて上昇させるアンテナ昇降装置本体の緊急上昇手段を設けたこと
4 被告の行為
被告は、業として、別紙製品目録記載の物件(以下「被告製品」という。ただし、別紙製品目録添付の図中「5」の部材については、その呼称に関して当事者間に争いがあり、被告は、「アンテナ昇降装置本体5」とすべきであると主張している。)を製造するとともに、別紙販売実績目録記載のとおり、被告製品を販売した。
5 被告製品は、本件考案の構成要件A及びBを充足する。
二 争点
1 被告製品が本件考案の構成要件Cを充足するかどうか
(原告の主張)
本件考案の構成要件Cの「アンテナ昇降装置本体」は、アンテナ、アンテナポール及びアンテナポール保持部材を総称するところ、被告製品においては、アンテナ8、展張アーム9及び昇降装置ハウジング5が「アンテナ昇降装置本体」に該当する。
被告製品においては、取付アーム4に、連結支点6を回動軸として回動可能な状態で取り付けられている昇降装置ハウジング5が、ガススプリング13により、別紙製品目録添付の図2の図示において反時計回りに回動する方向に常時付勢されており、この回動を、ロック部材10とクランプ11との係合により抑止しているところ、緊急時において、操縦士がケーブル20を引くと、ロック部材10とクランプ11との係合が解除され、その結果、ガススプリング13の反発力によって、昇降装置ハウジング5は、連結支点6を回動軸として回動し、垂下位置にあったアンテナ8及び展張アーム9は、機体の前後方向を横切る方向に、ほぼ水平状態まで急速に(約一秒間で)回動して、着陸用ソリ1よりも高い位置に収容される。
被告製品の右構造は、「アンテナ昇降装置本体を着陸装置の下端よりも上部位置にはね上げて上昇させるアンテナ昇降装置本体の緊急上昇手段を設けたこと」という構成要件Cを充足する。
(被告の主張)
本件考案の構成要件Cの「アンテナ昇降装置本体」は、「アンテナを昇降させるための付属物を除いた主要な部分」を意味するところ、被告製品においては、アンテナ昇降装置本体5がこれに該当する。
被告製品においては、別紙製品目録添付の図1及び同2に実線で示すように、アンテナを着陸装置の下端へ降下させた通常の使用状態のとき、アンテナ昇降装置本体5が、上方の固定支持板3から突出する取付アーム4の下端の連結支点6の側方に位置して、該取付アーム4により支持されている。
このような状態において緊急時の作動用ケーブル20を引くと、取付アーム4の連結支点6の上方に第二可動アーム17を介して接続されたガススプリング13が、図2において反時計回り方向に回動することで、アンテナ昇降装置本体5は取付アーム4の下端の連結支点6を中心として、鎖線で示すように横方向に回動する。すなわち、アンテナ昇降装置本体5は、緊急時において、図2の鎖線で示す状態及び図3に示すように、取付アーム4の側方から取付アーム4の下方へ回動することになる。
以上のように、被告製品は、アンテナ使用時においてアンテナ8を着陸装置1の下方へ展張させ、緊急時にはアンテナ8を着陸装置1の下端よりも高い位置へ上昇させるものではあるが、アンテナ昇降装置本体5は、取付アーム4下端の連結支点6よりも下方へ回動して下降するのであり、この意味において、アンテナ昇降装置本体5が上昇することはない。
したがって、被告製品は、「アンテナ昇降装置本体を着陸装置の下端よりも上部位置にはね上げて上昇させる」という構成を充足しない。
2 本件考案が新規性及び進歩性のないものとして無効であるかどうか、又は少なくとも技術的範囲を実施例に限定して解釈すべきかどうか
(被告の主張)
本件考案の各構成要件に示された技術は、ヘリコプター(JA9164)搭載のアンテナ昇降装置によって昭和五二年当時すでに実施されており、本件考案出願時において公知であったから、本件考案は新規性及び進歩性のないものとして無効であるか、少なくともその技術的範囲は実施例に限定して解釈すべきである。
(原告の主張)
被告が公知技術として挙げるアンテナ昇降装置は、通常のアンテナ上下作動手段が故障した場合には、操縦席に備え付けられた「手動収納ハンドル」を手前に引き、それを再び元の位置に戻して、また手前に引くという動作を約二五回繰り返すことによって、手動でアンテナを収納する方法であり、到底緊急上昇手段と呼べるものではなく、アンテナ昇降装置本体をはね上げて上昇させるものでもない。
3 原告の損害額
(原告の主張)
一般に送信用アンテナの取付けはヘリコプターの「改造」に該当するので、ヘリコプターの所有者が勝手に行うことはできず、耐空性基準を満たすノウハウを有する整備業者が行っている。
テレビ映像送信用のアンテナ取付工事の請負は、単にアンテナを取り付けるというに止まらず、テレビカメラ、モニター送信装置等を機内に設置し、カメラのレンズ部とアンテナを機外に取り付けるという一連の工事の請負と一体となっている。
アンテナを取り付けるためにはアンテナ昇降装置が必要不可欠であるところ、アンテナ昇降装置については、市販品がないため、アンテナ昇降装置の製造技術のない整備業者は、アンテナ取付工事を請け負うことはできない。
以上のように、アンテナ昇降装置は、その販売をしなければ、テレビ映像送信用のアンテナ取付に関する一連の工事を受注することができないのであるから、右の一連の工事の一部として、被告製品の販売という侵害行為がされた場合には、当該工事全体による利益の額をもって、侵害行為による利益の額とすべきである。
しかるところ、被告が被告製品の販売によって得た利益の額は、別紙原告主張利益額一覧表記載のとおりであり、合計は四三二万二九三九円となる。
(被告の主張)
アンテナ昇降装置を単体で購入するか、その取付工事まで発注するかまた他の機器の購入やその取付工事も一緒に発注するかは、購入者、発注者の自由な選択であり、被告製品の販売が常にその取付工事や他の機器の販売取付工事を伴うものではない。したがって、原告が主張するようにアンテナ取付に関する一連の工事全体による利益の額をもって、侵害行為による利益の額とすることはできない。
被告は被告製品普及のために当初採算を度外視して販売していくという営業方針をとっていたため、立ち上がり段階であった別紙販売実績目録記載の各販売においては、いずれも販売価格から製造取付工事原価を差し引いた額では損失となっており、被告は被告製品の販売において利益を得ていない。
第三 当裁判所の判断
一 争点1について
1 まず、構成要件Cの「アンテナ昇降装置本体」の意義について判断する。
(一) 本件考案に係る明細書(甲三の二)の「考案の詳細な説明」には、「考案が解決しようとする課題」として、「電波の機体との干渉を防止するために、アンテナを可動式にし、使用時には機体と電波が干渉しない位置までアンテナを降下させるようにした場合は、アンテナが降下した位置で万一昇降装置に故障が生じたときには、着陸不能となり、大事故の原因となる。本考案者はアンテナの上下への移動手段に加えて、上記のような緊急時に、アンテナを着陸に支障のない位置に簡単に移動させることができる手段を組み合わせることによって安全性の高いアンテナ昇降装置が得られることを見出し本考案に到達した。すなわち本考案は、機体と電波が干渉しない位置にアンテナを降下させることができ、しかも降下した位置で昇降装置に故障が生じた場合でも、安全に着陸することができるアンテナ昇降装置を提供することを目的とする。」と記載されており、「課題を解決するための手段」として、「本考案はヘリコプターに装着し、アンテナを昇降させる装置であって、使用時にアンテナの送受信電波が機体と干渉しない位置に下げるアンテナポールの上下作動手段と、アンテナ昇降装置本体を着陸装置の下端よりも上部位置にはね上げて上昇させるアンテナ昇降装置本体の緊急上昇手段とを設けたことを特徴とするヘリコプターのアンテナ昇降装置である。」と記載されている。
これらの記載に前記第二の一2の実用新案登録請求の範囲の記載を総合すると、本件考案は、ヘリコプターに取り付けられたアンテナを、使用時には「機体と電波が干渉しない位置」に下げ、アンテナが降下した位置で昇降装置に故障が生じたときには、ヘリコプターを安全に着陸させるために、アンテナを着陸装置の下端よりも上の位置に移動させることを目的とする考案であると認められる。このような本件考案の目的からすると、構成要件Cにおいて「着陸装置の下端よりも上部位置にはね上げて上昇させる」対象である「アンテナ昇降装置本体」には、アンテナ及びそれを支持するポールが含まれると解するのが合理的である。
(二) 本件考案に係る明細書(甲三の二)の「実施例」には、「アンテナ昇降装置2に内蔵された上下に作動するアンテナ・ポール6の先端にアンテナ5が固定されている。使用時にはアンテナの先端は機体との間で起こる電波の干渉を防止するため、通常は着陸装置の下端部よりも低い5'の位置にまで降下させる。もしアンテナ・ポール6が降下した位置6'において上下作動装置が故障し、上昇が不可能となった場合、操縦士がワイヤー7を引くことにより、ロック装置4内のUロック13がアンテナ昇降装置2から外れ、アンテナ昇降装置2、アンテナポール6及びアンテナ5はそれぞれ2"、6"および5"で示すエマージェンシー時位置まではね上がり、着陸の障害にならないようにしたものである。」と記載されている(別紙本件実用新案公報の図面参照)。右実施例においては、アンテナ昇降装置2は、常に着陸装置の下端よりも上部にあり、上下作動装置が故障した時に、着陸装置の下端よりも上部位置にはね上げて上昇させられるのは、アンテナ5及びアンテナ・ポール6である。
(三) 構成要件Cの「アンテナ昇降装置本体」について、本件考案に係る明細書(甲三の二)中に、これを直接定義する記載はなく、それを文字通り「アンテナ昇降装置の主要な部分」と解したとしても、当然にアンテナ及びそれを支持するポールが除外されるということはできないから、文言上も「アンテナ昇降装置本体」にアンテナ及びそれを支持するポールが含まれると解することが可能である。
(四) そうすると、構成要件Cの「アンテナ昇降装置本体」には、アンテナ及びそれを支持するポールが含まれると解するのが相当である。
2 右1で述べたところに照らすと、別紙製品目録添付の図中「5」の部材について、「アンテナ昇降装置本体」と呼ぶことは相当ではなく、その形態等からすると、原告が主張するように「昇降装置ハウジング」と呼ぶことが相当である。
3 被告製品は、「アンテナ8を垂直方向へ下降させた使用状態において、電気系統の故障等により、垂下させたアンテナ8を上方へ収容できなくなるような緊急事態が発生した場合には、昇降装置ハウジング5を横方向に急速に回動してアンテナ8を水平方向に収容する」というものであり、その際には、「操縦席内に設けられたレバーを操作して、ケーブル20を引くと、図4に示すように、ロック部材10がケーブル20により右側方向へ引かれて、押上げ突起10aが反時計回り方向へ回動し、昇降装置ハウジング5の上面の係止部10bを上方へ押し上げている固定力が解除されるので、これにより昇降装置ハウジング5は連結支点6を中心とする回動が阻止されない状態となり」、「ガススプリング13の突出軸13aが図4の左側方向へ押し出されることで、ガスプリング13突出軸13aの押圧力(反発力)が働き、これにより、昇降装置ハウジング5はアンテナ8が垂直に下降したままの状態で連結支点6を中心にして、図3及び図4のように、反時計回り方向へ回動して横倒しの状態となり、その結果、アンテナ8は機体を横切る方向のまま水平な状態で収容され」、「右の収容状態において、アンテナ8の位置はソリ1よりも高い位置にあり、また、操縦席におけるレバーの作動から右アンテナ8の収容状態に至るまでに要する時間は、約一秒である。」というのである(別紙製品目録図面の説明二<1>ないし<3>)から、被告装置においては、以上認定の手段によって、「アンテナ昇降装置本体」を構成するアンテナ8及びそれを支持するアームである展張アーム9を、連結支点6を中心として回動させ、それらを着陸装置であるソリ1の下端よりも上部位置にはね上げて上昇させており、被告製品は「アンテナ昇降装置本体を着陸装置の下端よりも上部位置にはね上げて上昇させるアンテナ昇降装置本体の緊急上昇手段を設けたこと」という構成要件Cを充足する。
二 争点2について
被告は、本件考案の各構成要件に示された技術は、ヘリコプター(JA9164)搭載のアンテナ昇降装置によって昭和五二年当時すでに実施されており、本件考案出願時において公知であったから、本件考案は新規性及び進歩性のないものとして無効であるか、少なくともその技術的範囲は実施例に限定して解釈すべきであると主張するが、実用新案が無効である旨の主張は、無効審判請求において行うべきものである。
また、証拠(乙二の一ないし七、乙三)によると、被告の主張に係るヘリコプター(JA9164)に搭載されているアンテナ昇降装置は、同装置の電動昇降モーター又はその電気系統が故障した場合には、手動収納操作によってアンテナを収納することができるものであること、右操作は、手動収納ハンドルを手前に止まるところまで確実に引くという動作を約二五回繰り返すことによるものであること、以上の事実が認められるから、右ヘリコプター(JA9164)に搭載されているアンテナ昇降装置の緊急時におけるアンテナ上昇手段は、構成要件Cにいう「アンテナ昇降装置本体を・・・・はね上げて上昇させる」ものとは認められず、他に本件考案が出願時に公知であったというべき事実は認められない。
よって、被告の右主張は採用できない。
三 争点3について
1 被告は、本件販売実績目録記載(a)ないし(c)(以下、それぞれ「本件販売(a)」、「本件販売(b)」及び「本件販売(c)」という。)の各販売時において、買主である東邦航空株式会社に対し、「TV中継装置修理改造工事」の名目で他の工事と一括して見積書を提示するとともに、同一の請求書に記載する形式で他の工事と一括して請求を行っている(乙六の一、二、乙七の一、二、乙八の一、二)。
本件販売(a)ないし(c)の見積書の費用項目のうち、被告製品の取付け並びに印紙、保険及び一般管理販売費の各項目を除いたその余の内容は、「TV中継装置の装備、センター・ラックの製作、カーナビ・システムの購入、環境試験費(GPS他)、ハイスキッド追加工事」(本件販売(a)。乙六の一)、「TV中継装置の装備、ストロボライトの装備、VHF追加装備、VHF移設、T/R Drive Shaft Bearingの交換、E/G Support Platformの修理、ゴムホースの交換」(本件販売(b)。乙七の一)、「TV中継装置改修工事、設計工数、検査及び調書作成技術料、材料費、消耗品費、VHF装備、ストロボ装備」(本件販売(c)。乙八の一)となっており、右各本件販売時に被告が一括して行った工事のうちで共通するものは、TV中継装置に関する工事のみであると認められる。
さらに、本件販売実績目録記載(d)(以下「本件販売(d)」という。)においては、被告製品が単体で販売され、取り付けられたことは当事者間に争いはなく、また、証拠(甲五)と弁論の全趣旨によると、被告は、被告製品単体のパンフレットを製作して、配布していることが認められるのであるから、TV中継装置に関する工事さえも、被告製品の販売と一体のものとはいえない。
したがって、本件各販売は、TV中継装置及びそれに関連した工事と一体のものであるとまでは認められない。
2 そうすると、原告の損害を推定する被告の利益としては、被告製品単体の販売(取付けを含む。)による利益と考えるべきであるが、右利益の額を認めるに足りる証拠はないから、原告の損害は本件考案の実施料相当額によって認めるほかない。
証拠(甲二、乙三)によると、ヘリコプターのアンテナ昇降装置の電動昇降モーター又はその電気系統が故障した場合の対応手段としては、本件考案のようなアンテナ昇降装置本体をはね上げるやり方以外にも、他の対応手段が存することが認められる。しかし、本件考案のアンテナ昇降装置本体の緊急上昇手段は、「アンテナ昇降装置本体を・・・・はね上げて上昇させる」ものであるから、緊急時に速やかにアンテナ昇降装置本体を上昇させ、着陸の安全を確保することができるというものである。これらの事情に、本件に現れた他の諸事情を考慮すると、本件考案の実施料率な販売価格の五パーセントをもって相当と認める。
3 本件販売(a)ないし(d)の各販売価格は、請求書(乙六の二、乙七の二、乙八の二、乙九の二)記載の各価格に、別の項目で計上されている一般管理費と消費税相当額を加算した金額となるところ、その金額は、別紙販売価格一覧表のとおりであるから、原告が請求することができる損害額は、次のとおり七〇万二四五〇円となる。
一四〇四万九〇〇〇円×〇・〇五=七〇万二四五〇円
四 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 杜下弘記)
(別紙)
製品目録
別紙図面及び図面の説明に記載のヘリコプター登載電動式アンテナ昇降装置(商品名「Retractable Antenna System (RAS)」)
図2
<省略>
図1
<省略>
図3
<省略>
図4
<省略>
図面の説明
図1ないし図4は、ヘリコプターの機体(図示せず)における着陸装置に装着されたアンテナ昇降装置の構造を示し、図1は通常のアンテナ収容時の状態を示す斜視図、図2は機体の前面方向より見たアンテナ使用時の状態を示す正面図、図3は緊急特にアンテナを収容した状態を示す斜視図、図4は図2と同じ位置で緊急時にアンテナを収容したときの状態を示す正面図である。
一 通常時及びアンテナ使用時の態様
<1> 図1ないし図4において、1はヘリコプターの機体操縦席(図示せず)の下部に取り付けられた着地用のソリ、2は着地用のソリ1を支持するための支柱であって、該支柱2は機体の下面を横切る方向に延びる水平部2aを有しており、前記ソリ1、支柱2及び支柱水平部2aによって着陸装置が構成されている。
<2> アンテナ昇降装置は、図1及び図2に示すように、機体操縦席の右側下面にボルト止めされる機体の前後方向に沿った縦長の固定支持板3を介してソリ1よりも高い位置に支持される昇降装置ハウジング5と、この昇降装置ハウジング5内に装着された展張アーム9と、この展張アーム9の先端に設けられたアンテナ8とを有している。
<3> 前記昇降装置ハウジング5は、機体下面に固定される前記固定支持板3の前後両端から下方へ延びるように突設した前後一対の取付アーム4の先端が、該昇降装置ハウジング5の内側の側面に設けられた前後一対の連結支点6に軸着されることで、前記両取付アーム4の先端に回動可能なるように支持されている。
<4> 前記昇降装置ハウジング5内には、先端にアンテナ8を有する展張アーム9が、基端部7(図3参照)を軸として、電動アクチュエーター(図示せず)により回動可能なるように装着されている。この展張アーム9及びアンテナ8は、アンテナの不使用時には、図1のように、上方に回動され、機体の前後方向に沿って水平状態となるように、昇降装置ハウジング5内に収容されており、アンテナの使用時には、図2に実線で示す状態のように、昇降装置ハウジング5の下方へ垂直状態に回動される。
<5> 図2及び図4に示すように、昇降装置ハウジング5の上方には、前記固定支持板3の上方に配置される支柱水平部2aに設けたクランプ11によって側方に押し上げ突起10aへ図4参照)を有するトグルクランプ機構からなるロック部材10が取り付けられていて、昇降装置ハウジング5の上面に突設した係止部10bの内側が、このロック部材10の押し上げ突起10aにより昇降装置ハウジング5を常時上方のアーム10cに押し付けられるように固定しており、従って、昇降装置ハウジング5は緊急時以外の状態において、前記連結支点6を中心とする回動が阻止されるようになっている。
<6> 一方、支柱水平部2aにおける前記クランプ11と反対側には、別のクランプ12を介して内部に突出軸13aを有するガススプリング13の一端が支点19を軸として回動可能に支持されており、このガススブリング13内における突出軸13aの先端は、一端が前記固定支持板3に支点21を介して連結された第一可動アーム14の他端と支点15を介して連結されている。
<7> また、昇降装置ハウジング5における前記取付アーム4の先端との連結支点6の上方には、第二可動アーム17の下端が連結支点16を介して連結されていて、この第二可動アーム17の上端は、前記第一可動アーム14の突出軸13aとの支点15よりも僅かに固定支持板3寄りの位置に支点18を介して連結されている。
<8> なお、図2に示すように、昇降装置ハウジング5が、ロック部材10により常時上方に押し付けられるように係止された状態においては、ガススプリング13の突出軸13aの先端と第一可動アーム14の先端とを連結する支点15は、第一可動アーム14の一方の支点21とガススプリング13の支点19との間を結ぶ線よりも僅かに上方(オーバセンター)へ押し上げられた状態となるように構成されている。
<9> ガススプリング13は、突出軸13aがガスの押圧力により、常時その先端方向(図2において左方向)に向かって付勢されているが、図2のように、昇降装置ハウジング5が、ロック部材10により常時上方に押し付けられるように固定された状態においては、前記のようにガススプリング13の突出軸13aの先端と第一可動アーム14の先端とを連結する支点15が、第一可動アーム14の一方の支点21とガススプリング13の支点19との間を結ぶ線よりも僅かながら上方(オーバセンター)に位置しているので、第二可動アーム17が、第一可動アーム14とアンテナ昇降装置ハウジング5における連結支点16との間に斜材として介在し、前記ロック部材10による上方への押し付け固定力と相まって、昇降装置ハウジングが、図2に鎖線で示すような横向き方向に簡単に倒れることがないようにしっかりと固定している。
<10> 前記昇降装置ハウジング5を固定するためのロック部材10には、操縦席とつながるケーブル20が接続されていて、緊急の際に、操縦席でこのケーブル20を引くことにより、図4に示すようにロック部材10が回動して、昇降装置ハウジング5に対する上方への押し付け固定力が解除されるようになっている。
<11> アンテナの使用時には、操縦席と電気的に接続されている前記電動アクチュエーターを作動することで、前記展張アーム9及びアンテナ8が、図1に示す水平の状態から図2に実線で示すようなほぼ垂直な状態にまで回動される。前記アンテナ8が垂直に回動した状態において、アンテナ8は着陸装置の最下端であるソリ1よりも数十センチメートル下方の、送受信電波が機体と干渉しない位置まで下降する。
また、アンテナの使用を終了した時には、電動アクチュエーターの作動により展張アーム9及びアンテナ8を上方に回動し、図1に示す水平の状態として、昇降装置ハウジング5内に収容する。
なお、アンテナ8の垂直方向への垂下及び水平方向への引き上げに要する時間は、夫々十数秒である。
二 緊急時の作動態様
<1> アンテナ8を垂直方向へ下降させた使用状態において、電気系統の故障等により、垂下させたアンテナ8を上方へ再収容できなくなるような緊急事態が発生した場合には、昇降装置ハウジング5を横方向に急速に回動してアンテナ8を水平方向に収容することができる。
<2> 操縦席内に設けられたレバー(図示せず)を操作して、前記ケーブル20を引くと、図4に示すように、ロック部材10がケーブル20により右側方向へ引かれて、押し上げ突起10aが反時計回り方向へ回動し、昇降装置ハウジング5の上面の係止部10bを上方へ押し上げている固定力が解除されるのでこれにより昇降装置ハウジング5は連結支点6を中心とする回動が阻止されない状態となる。
<3> 一方、この状態において、昇降装置ハウジング5を回動可能に軸支する連結支点6の上方には、連結支点16を介して第二可動アーム17の下端が連結されていると共に、この第二可動アーム17の上端は、ガススプリング13の突出軸13aの先端と支点15を介して連結された第一可動アーム14に連結されている関係にある。このような連結熊様において、ロック部材10による昇降装置ハウジング5の回動が阻止されなくなると、ガススプリング13の突出軸13aが図4の左側方向へ押し出されることで、ガススプリング突出軸13aの押圧力(反発力)が働き、これにより、昇降装置ハウジング5はアンテナ8が垂直に下降したままの状態で連結支点6を中心にして、図3及び図4のように、反時計回り方向へ回動して横倒しの状態となり、その結果、アンテナ8は機体を横切る方向のまま水平な状態で収容される。
右の収容状態において、アンテナ8の位置はソリ1よりも高い位置にあり、また、操縦席におけるレバーの作動から右アンテナ8の収容状態に到るまでに要する時間は、約一秒である。
1・・・・・着陸用ソリ
2・・・・・支柱
2a・・・・支柱水平部
3・・・・・固定支持板
4・・・・・取付アーム
5・・・・・昇降装置ハウジング
6・・・・・連結支点
7・・・・・基端部
8・・・・・アンテナ
9・・・・・展張アーム
10・・・・ロック部材
10a・・・押し上げ突起
10b・・・係止部
10c・・・アーム
11・・・・クランプ
12・・・・クランプ
13・・・・ガススプリング
13a・・・ガススプリング突出軸
14・・・・第一可動アーム
15・・・・支点
16・・・・連結支点
17・・・・第二可動アーム
18・・・・支点
19・・・・支点
20・・・・ケーブル
21・・・・支点
(別紙)
原告主張利益額一覧表
<省略>
(別紙)
販売実績目録
販売日 販売先 数量
(a) 平成九年六月三〇日 東邦航空株式会社 一式
(b) 平成九年七月三一日 東邦航空株式会社 一式
(c) 平成九年一一月二八日 東邦航空株式会社 一式
(d) 平成一〇年五月一日 中日本航空株式会社 一式
(別紙)
本件実用新案公報の図面
<省略>
<省略>
(別紙)
販売価格一覧表
<省略>